ジョー小泉のひとりごと 2021年10月


父と子

 ほぼ毎朝、区のプールに泳ぎに行く。泳ぐと身体と頭の調子がいい。温水プールで泳いだあと、深呼吸しながらゆっくり歩いて帰る。帰途、今日のスケジュール、仕事の順序などを考える。ぼんやり歩いていると、ふと普段思いつかないような霊感(インスピレーション)が沸くことがある。

 一年に三百日泳ぐのを目標にしているので、ほぼ毎日プールに通うが、日曜の朝、いつも会う父子がいる。二人とも体が大きく、背が一八〇センチ近くある。

 息子は中学生くらいだ。父は泳ぎが未熟な子の腹を下から支えて水の中を歩く。子は父のいう通り、クロールや平泳ぎをするが、運動が不得手なようだ。

 脱衣場で一緒になったとき、父はタオルで子の体を拭き、下着、服を着せていた。父は話しかけるが、子は喋らない。子は動作が緩慢だ。多分、〇〇遅れなのだろう。子は父に頼り切っている感じだ。

 毎週一度、その父子を見かける。あるとき、父が子に見本を見せるためか、「お父さん、ちょっとひと泳ぎしてくるから」といって、子をプールの端に待たせた。

 父は見事なクロールで行って帰ってきた。それを待つ間、子は父の泳ぐ姿を注視していた。父が戻ってきたとき、実にうれしそうな顔をして、父に抱きついた。父も子を抱いた。まるで久しぶりに再会したかのように二人は水の中で互いを確認し合った。

 帰り際、体育館の出口で、子は手を伸ばし、父の手をしっかりつかんだ。父は手を握り返した。二人は肩を並べ、歩いて帰る。

 それだけの話だ。私はその父子を見るたびに、心が熱くなり、二人を応援したくなる。
(10−29−2021)


星野敬太郎氏 追悼

https://fightnews.com/ex-wba-champ-keitaro-hoshino-passes/122247