アウゲンマス(目分量)

 最近読んだ本で感心したのは、「奏鳴曲 北里と鴎外」だ。
以前から森鴎外と北里柴三郎がほぼ同期の医学者でドイツ留学の時期が重なっているのに、両者の交流、軌跡の交錯についてもっと情報がないか、と思っていた。まさにその疑問にこたえる本が出た。

 すぐ書店で求め、たちまち読み切った。実に面白い本だった。

 読後、ある言葉が気になった。これは決して誤植を非難するためではない。

 203頁にこういう記述がある。
 鉄血宰相の信条は「アウデンマス(目分量)」が肝要で杓子定規が最悪だといい、後藤(新平)の信条に嵌まった。

 これはアウデンマスでなく「アウゲンマス」が正しく、Augenmassと綴る。最後のssは正しくはエス・ツェットである。

 Auge(目)+Mass(計測)だから、Augenmassは目測、ひいては目分量という意味になる。だが、目測と目分量はちょっと意味合いが違うような気がするが。

 Augenmassを辞書で引いてみると、目測(能力)、見通す力、判断力と「能力」の意味合いが強く、例文でも、
「ein gutes Augenmass haben 目測が確かである」
と、よく目がきくという能力を示唆している。

 再版のとき、この誤植は直っているだろう。
 この現役の医師で作家である著者に興味を持ち、その近刊「よみがえる天才 森鴎外」を予約注文した。
(3−31−2022)