激動の80年代に活躍した名選手たちを科学的に分析!

80年代のリングは輝いていた

〜世界のトップボクサー技術分析〜

B5判 並製本 311頁 ジョー小泉 著

発行:リング・ジャパン、発売:星雲社 特別価格 1,000円(税・送料込み)

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目次

まえがき

  1. シュガー・レイ・レナード レナードはボクシング技術の革命児だ
  2. アレクシス・アルゲリョ アルゲリョは技術の粋を追求する放浪者だ
  3. サルバドル・サンチェス サンチェスは未完のカウンターパンチャーだった
  4. マービン・ハグラー ハグラーは驚異的なサウスポーだ
  5. アーロン・プライアー プライアーは八方破れの荒鷲だ
  6. マイケル・スピンクス スピンクスは強打のスロースターターだ
  7. ジェフ・チャンドラー チャンドラーは成長中の”揺さぶり屋だ“
  8. ウイルフレド・ゴメス ゴメスはカムバック中の”バズーカ砲“だ
  9. ルペ・ピントール ピントールは”飢え“を失わぬファイターだ
  10. ヘクター・カマチョ カマチョのスピードはまるで閃光だ
  11. デビー・ムーア デビー・ムーアは手打ちの”速射砲“だ
  12. ラリー・ホームズ ホームズはストレート・パンチに徹しアリを超えた?
  13. ロベルト・デュラン 4階級制覇を狙う野望高き”石のコブシ“
  14. エウセビオ・ペドロサ 16連続防衛を果たしたパナマの”さそり“
  15. ファン・ラポルテ ラポルテは右手にダイナマイトを持つポパイだ
  16. サントス・ラシアル ラシアルはフォロースルーを効かす豆タンクだ
  17. ゲリー・コーツィー コーツィーは針金入りの右手でヘビー級王者になった
  18. エデル・ジョフレvs.カルロス・サラテ ジョフレは待って倒し、サラテは仕掛けて攻め落とした
  19. ミルトン・マックローリー ハーンズ、マイナス迫力が”氷の男“マクローリーだ
  20. ハイメ・ガルサ 稲妻ガルサはダニー・ロペス2世だ
  21. レイ“ブンブン”マンシーニ マンシーニは不屈のパワーパンチャーだ
  22. ドナルド・カリー ”コブラ“の異名をとるカウンターパンチャー
  23. パヤオ・プーンタラット 英国式スタイルのカウンターパンチャー
  24. アルベルト・ダビラ 4度目の正直で王座についた連打型のボクサー
  25. リチャード・サンドバル チャンドラーを破った長身のファイター
  26. 張正九(チャン・ジョングー) ”韓国の鷹“張は小型プライアーだ
  27. トーマス・ハーンズ ハーンズは怪物的なヒットマンだ
  28. シュガー・レイ・ロビンソン ロビンソンという名のボクシング・マスター
  29. カルロス・デレオン 左ジャブ一本で王座を堅持するテクニシャン
  30. ハワード・デービス グラスジョーのスピードスター
  31. ジョー・メデル 鷹の目を持つロープ際の魔術師
  32. マービン・ハグラーvs.トーマス・ハーンズ ハーンズのスピードか 、ハグラーの試合経験か
  33. バリー・マクギガン 無敵ペドロサに挑むアイリッシュの旋風児
  34. ジョン・ムガビ KO率100%を誇るウガンダ産の”野獣“
  35. ホセ・ルイス・ラミレス アルゲリョ・オリバレスをダウンさせた左強打者
  36. カオサイ・ギャラクシー 必殺のボディ・ブローを誇るサウスポーの荒法師
  37. ビル・コステロ 積極的攻撃が身上のパワーパンチャー
  38. フリオ・セサール・チャベス 史上最高のメキシカンと自称する強打者
  39. ルペ・ピントール 闘志で2階級制覇した怪物的不死鳥
  40. カルロス・モンソン 長い腕とアゴを持った70年代屈指のミドル級王者
  41. ソット・チタラダ スピードとタフさを武器にするタイ式出身のモハメド・アリ
  42. イラリオ・サパタ 軟骨動物のような防御を誇るテクニシャン
  43. 渡辺二郎 磨きあげた右フックと勝負度胸を誇る天才児
  44. ホセ・ナポレス バターのように滑らかな攻防一体の技巧派パンチャー
  45. パトリツィオ・オリバ ジャブとフットワークで世界奪取した技巧派
  46. ドワイト・モハメド・カウィ 「傷だらけの栄光」をつかんだタフで強打の丸鋸パンチャー
  47. レネ・アルレドンド 右ストレートを武器に浜田を迎え撃つ強打者
  48. 柳明佑 正確な連打とかたい防御で敵を消耗させるファイター
  49. アズマー・ネルソン いまや無敵の荒野を行くアフリカ出身の野生児
  50. マイク・タイソン 史上最年少ヘビー級王者目前の戦慄的な倒し屋
  51. エドウィン・ロサリオ ライト級実力世界一を実証 強打のカウンターパンチャー
  52. マイク・マッカラム 無敵ハグラーを破る第一候補 ハーンズ、カリーより強い技巧派
  53. ヒルベルト・ローマン 目の先三寸でパンチをかわすミゲル・カントの後継者
  54. サーマート・パヤクアルン 左ストレート・カウンターで世界制覇した『暁の虎』
  55. 李承勲 四度目の世界挑戦を成就させた東洋屈指のテクニシャン
  56. ベルナルド・ピニャンゴ 左ジャブと試合の駆引きで綱渡り防衛を続ける技巧派
  57. マービン・ジョンソン 先行逃げ切り型のラッシュで3度王座を獲得したサウスポー
  58. ロイド・ハニガン 無敵カリーに番狂わせで勝ったパワーパンチャー
  59. ジェフ・フェネク IBFからWBCに乗り換えた強打でタフな豪州の救世主
  60. 朴鍾八 強打と闘志で防衛を続ける東洋最重量級の世界王者
  61. レスリー・スチュワート L・ヘビー級王座に就いた強打のテクニシャン
  62. ミゲル・ロラ 強打と試合運びの巧さで無敗を続ける強運の王者
  63. ルーイ・エスピノザ 1ヶ月間に2度KO防衛した強打の”戦うチャンピオン“
  64. バージル・ヒル オリンピック銀メダリストからプロで世界を制した幸運児
  65. フィデル・バッサ 難攻不落のサパタを攻略、逆転が得意な曲者王者
  66. シュガー・ロハス 強豪ラシアルから王座奪取 正統派のボクサー・タイプ
  67. トニー・タッブス 鉄人タイソンに挑む巨漢のテクニシャン
  68. ウィルフレド・バスケス 軽量級ばなれした強打を誇るスラッガー
  69. マーロン・スターリング 苦しい防衛が続くベテラン魔術師
  70. ブライアン・ミッチェル 国外防衛を続ける放浪の技巧派王者
  71. アイラン・バークレー ハーンズを破った番狂わせの専門家
  72. スンブ・カランベイ 稲妻のような左ジャブとカモシカの足を誇る技巧派
  73. ドン・ラロンデ マスクも甘いが防御も甘い金髪爆撃機
  74. フルヘンシオ・オベルメヒアス 強敵ハーンズを迎え撃つ35歳の古豪
  75. ジュリアン・ジャクソン スーパースターになれないカリブ出身の強打者
  76. ロジャー・メイウェザー グラスジョーを克服したカウンターパンチャー
  77. イベンダー・ホリフィールド 無敵タイソンの王座を狙う正統派ボクサーファイター
  78. ファン・マルチン・コッジ 「むち」と呼ばれる左強打で世界制覇の変則サウスポー
  79. 文成吉 7戦目で世界王者になった韓国の「石のコブシ」
  80. ジェフ・フェネック 突如、引退発表した猪突猛進型ラッシャー
  81. マーク・ブリーランド プロで伸び悩む元スーパーアマチュア
  82. 白仁鐡 東洋が生んだ強打の最重量級世界王者
  83. ダニエル・サラゴサ 土俵際で踏みこたえる技巧派サウスポー
  84. パーネル・ウィテカー 牛若丸のように俊敏な技巧派サウスポー王者
  85. ナパ・キャットワンチャイ 強打の大橋が挑戦を狙う実力上昇中のサウスポー
  86. 金奉準 噛ませ犬から世界王者にのしあがったラッシャー
  87. 崔漸煥 大橋の挑戦を受ける技巧派のファイター
  88. ヘスス・サルード エストラーダを倒した戦慄の「ハワイアン・パンチ」
  89. サイモン・ブラウン ウェルター級最強王者といわれるハードパンチャー
  90. ジェフ・ハーディング タフネスと連打が売り物のクロコダイル・ダンディー
  91. 李烈雨 若さと頑強さで2階級制覇 玉熊が挑む”張正九の後継者“
  92. ウンベルト・ゴンザレス 「クエバス」プラス技巧、攻防兼備の小さな巨人
  93. マルコス・ビジャサナ 5度目の正直で世界を制したタフな人間風車
  94. デニス・アンドリュース 36歳でL・ヘビー級王座を3度掴んだ突貫ファイター
  95. マイケル・カルバハル 米国リングに「軽量級革命」 超人気の”小さな石の拳“
  96. アントニオ・エスパラゴサ 相手を泳がせて射落とす攻防兼備の技巧派強打者

特別編 シュガー・レイvs.シュガー・レイ ロビンソン、レナード もし戦わば

あとがき


まえがき

 英語で10年間をDECADEと呼び、正式には例えば1981年から1990年のように1で終わる年から次の0で終わる年までを指す。ちなみに、100年間はCENTURY(世紀)と呼ぶ。

 この本のタイトルはおかしい、と思われるかもしれない。ボクシングの歴史において、80年代だけが輝いていたわけではない。各10年間はおのおの独自の輝きを放っていたはずだから。60年代も、70年代も、90年代も輝いていたはずだ。

 いま80年代の特徴を明示するため、70年代から90年代までを彩った名選手たちを列挙してみよう。

<70年代>

 アリ、フレージャー、フォアマン、フォスター、モンソン、ナポレス、クエバス、セルバンテス、ベニテス、デュラン、アルゲリョ、D・ロペス、ゴメス、オリバレス、サラテ、カント、具志堅用高

<80年代>

 ホームズ、タイソン、スピンクス(弟)、デ・レオン、ハグラー、レナード、ハーンズ、デュラン、マッカラム、カリー、カマチョ、チャベス、サンチェス、ペドロサ、ネルソン、フェネック、ピントール、チャンドラー、渡辺二郎、カオサイ、ローマン、チタラダ、張正九、柳明祐

<90年代>

 タイソン、R・ジョーンズ、ホプキンス、ウィテカー、チャベス、デラホーヤ、トリニダード、クォーティ、ジュー、ネルソン、ヘナロ、ハメド、モラレス、バレラ、辰吉丈一郎、H・ゴンサレス、カルバハル、R・ロペス

 こう並べると、80年代の持つ意味が明瞭になる。70年代のスーパースターたちが当時の水準を越えて発揮した稀有の技量が、ジムという現場に伝達され、80年代にそれが解剖され分析され実験され改良され、さらに世界中に浸透し、技術レベルが飛躍的に向上した。それが80年代だった、と思う。90年代になると、その技術的浸透はさらに加速された。

 いかなる名選手にもアナはある。名選手は長所で短所を隠し、短所が露見する前に相手を倒す。しかし、名選手もいつか短所を解読され、そして落城する。――その下克上のプロセスは非常に技術的であり科学的である。すなわち、現在の栄光も、将来の没落も、過去の軌跡の中に前兆が潜んでいる。

 「ワールド・ボクシング」誌に80年代を通じて、「世界のトップボクサー技術分析」と題したコラムを書き続けた。その10年間は、偏執的といえるほどビデオを見て、各選手の長所、短所を綿密に観察した。

 そのビデオ観察記をまとめたのが本書である。これはビデオの画面と対峙し、対決した「わが戦記」である。そして、86年(もう15年以上前になる)に出した拙著「ボクシングは科学だ」のパート2でもある。


あとがき

 本書はいわば記号論だ。

 全編、「左ジャブは」、「右ストレートは」、「左フックは」、「右アッパーは」といった記号(専門用語)の連続である。これは、マニア、ボクサー、トレーナーのための本である。

  筆者にとりこれは11冊目の本だ。

 いつも筆者は言う。「私の言うこと、書くことが絶対的に正しい、などという積りはない。私はある時点において自分の意見を提示する。それを土台に議論が展開されるのが、私の希望だ。将来の状況が変化すれば、私自身、意見を変える、あるいは変えざるを得ない可能性がある」と。

 ボクシングのセオリーにおいては、@変化しない部分とA変化する可能性がある部分とがある。たとえば、@は、「ナックルでヒットすべきだ」、「バランスが重要だ」、「急所を打てばパンチが効く」などの基本的セオリーである。しかし、Aは、コンビネーション・ブローの組み立て、それに対応するディフェンスおよびカウンター、より速く強く打つためのトレーニングなどの方法論である。

 ボクシングのような変化、流行の激しい格闘競技において十年一日、同じセオリーを唱えていては、時代の流れに取り残され、目先の試合に勝てない。

 「セオリーはつねに現実に琢磨されねばならない」と思う。

 琢磨とは、玉をすり、磨くがごとく、学問・技術に励み修練することだ。ボクシングのセオリーというものは、現実のファイトにより変化する柔軟性を持たねばならない。現実を見つめ、それに追いつき、さらに将来のセオリーを打ち樹てるためには、観察、分析、発見、工夫、実験、修正などのプロセスが必要である。努力なくして現実の変動についてはいけない。

 筆者はマッチメーカーであり、マネジャーであり、筆を執る批評家である。現実と文章の間をいつも往復する。自分の考え(すなわち、仮説)や評価が間違っていたことを目の前の試合で実感させられることも多々ある。

 80年代、筆者は中島成雄選手の世界戦のトレーナーをし、渡辺二郎選手のカットマンでありアドバイザーであった。赤井英和選手の世界戦ではエディ・タウンゼント氏の代役トレーナーでセコンドを務めた。後輩の千里馬啓徳選手をデトロイトのクロンク・ジムに預け、エマニュエル・スチュワード・トレーナーの指導法をつぶさに見た。メキシコのジムも何度か訪れた(案内役を務めてくれた西出健一氏に感謝する)。ヨネクラ・ジムでは松本清司トレーナーの教え方を見、三迫ジムではエディさんのコーチ法を観察した。

 私の中でセオリーと現実の格闘があった。その経験は、このトップボクサー技術分析の中に表れている。

 1980年代、筆者は多くの時間をビデオを見ることに使った。取り憑かれたように連日、海外・日本の試合をビデオで観察した。その所産が本書である。80年代の最初と最後でさえ、ボクシングが変化している。ボクシングは90年代にまた変容し、21世紀になりいまなお変わり続けている。

 たとえば、タイソンが得意とした右フック(脇腹)―右アッパー(アゴ)−左フック(ジョー)のコンビネーションは、昨今、世界中の選手が打つ。80年代には一部の選手しか使用しなかったダブル・ジャブが、(右クロス・カウンター封じの効果を認められ)世界中で一般的に使われだした。サウスポーに対して右のダブルを打つのも、90年代に入り、一般化した。一方、スピード・アップ、コンビネーション・ブローの回転高速化に伴い、インファイトの技術の一部は効果的ではなくなりジムで教えなくなってきた。それは技術の進化が他の技術の退化を犠牲として促進される例だろう。

 その進化を起こしている原動力は、世界各地のボクサーとトレーナーの集合体にある。今後ともこの集合体はボクシングを、そのセオリーを部分的に修正し続け、その蓄積が結果としてボクシングの技術を進化させるだろう。

 いいファン(ボクシング観察者)とはここでいう変化や進化に敏感な人たちだろう。そのような感度のいい観察者のためにこの本をまとめた。

 細かいことを補足しておきたい。

 階級の呼び名は当時のものを使った。輪島功一はジュニア・ミドル級のチャンピオンで、浜田剛史はジュニア・ウェルター級の王者だ、と当時言った。いまさら、歴史を塗り替えるように、輪島はスーパーウェルター級チャンピオンで、浜田はスーパーライト級王者だった、と改竄することを本書ではしない。肩書きとチャンピオンの名前とはイメージの中で密接に結びついている。違和感を催させるような、過去に遡って階級の呼称を変えることを本書では拒否した。

 中南米選手の名前も、当時の呼び方をそのまま使った。ルーベン・カスティーヨを“カスティージョ”とは表記していない。われわれの記憶の中で、海老原と戦ったのはアカバリョであり、アカバージョではない。そんな枝葉末節より、本書で議論すべきは各選手の細かい技術の分析である。本末を転倒すべきではない、と考えた。手間を省いたのではない。カスティーヨをカスティージョと書き変えるくらい、パソコンの「置換」をすれば一瞬のうちに全編を通じて行える。あえてそれをしなかったのは、議論の途中、出てくる選手のイメージを読者により瞬時に想い起こしてほしいからである。

 明らかに筆者の評価、予想が外れている例もある。たとえば、レスリー・スチュワートへの評価、将来の成長の予想においてである。それは筆者の技術分析の失敗例である。しかし、それもその時点での現実であった。「私はスチュワートの転落を予想していた」などと文章を書き換えてはいない。誤りは誤りとして、変化(見方の修正)の基礎になる。

 最後に、写真を提供してくれた「RING」誌、Big Fights社のBill Cayton氏、そして「ワールド・ボクシング」誌の前田衷編集長に感謝したい。前田編集長には、こんな個性の強い技術分析を約10年間、書き続けさせてもらい、その点でも非常に感謝している。毎月自分の考えをまとめ、書き続けることで、筆者のボクシング観は現実により琢磨された、と思う。

 弊社リング・ジャパンの助手、久保田守君には、パソコンを叩き、筆者の膨大なビデオ・ストックから分析対象の選手のビデオを抽出し、毎月、ビデオの試合の頭出しをしてもらった。さらに、連載中、ノックダウンの数とかラウンドとか細部のデータにつき、よく確認してもらった。感謝している。

 本書製作において内容、構成、日程の点で筆者のさまざまな要望を実現してくれた武蔵野印刷の皆さんに、いつもながら多大な謝意を表したい。そして、わがリング・ジャパン・スタッフ諸君にも――。

 2002年7月

 ジョー小泉

以上